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ベラルーシ共和国における医療支援活動について

武藤化学では、チェルノブイリ原発事故より発生した被爆被害に対するチェルノブイリ医療支援ネットワークに参加し、1997年よりベラルーシ共和国ブレスト州において、現地の医療関係者らと合同で甲状腺ガン検診プロジェクトに取り組んでいます。

チェルノブイリ医療支援ネットワークでは、1997年よりベラルーシ共和国ブレスト州において、現地の医療関係者らと合同で甲状腺がん検診プロジェクトに取り組んでいる。
チェルノブイリ原発事故直後から各国NGO等からの支援活動が盛んだったゴメリ州と比べ、同じ汚染州であるブレスト州では、当初被災者支援が遅れていた。そこでチェルノブイリ医療支援ネットワークでは、ブレスト州内で特に甲状腺がんの発症率が高かったストーリン地区において、検診プロジェクトを開始した。

医療支援プロジェクトの様子

日本医科大学付属病院病理部 渡會泰彦

はじめに

2011年3月11日に東北を襲った大震災により、福島原発が被災し大量の放射線が外部に放出され、“国際原子力事象評価尺度(INES)暫定レベル7=深刻な事故”という国家的危機は、約30年前の1986年に旧ソ連邦で発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を思い起こさせ、事故後の経過を再認識することとなりました。

チェルノブイリ原子力発電所事故

1986年4月26日 旧ソ連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉の出力が実験中に急上昇し暴走、炉心融解(メルトダウン)の後、爆発炎上しました。その結果、風下であったベラルーシなど周辺地域が広範囲に汚染されレベル7の深刻な事故に指定されました。

放射性ヨード(131I)被曝について

ヨード(I)は体内で甲状腺ホルモンを合成する際に必須な元素であり,血中から甲状腺濾胞上皮に取り込まれますが、その取り込みはよう素の欠乏状態では活発に取り込まれ、過剰状態では抑制されます。そのため放射能汚染が生じた場合はあらかじめ放射性でないよう素で甲状腺を飽和させる防護策を講じることができます。海洋国家である日本では海藻等の日常的な摂取により、よう素は豊富ですが、ベラルーシのような内陸の国ではヨード欠乏状態であり、その結果大量の放射性よう素が甲状腺内に取り込まれ甲状腺癌を発症させたと考えられます。

ベラルーシ共和国における甲状腺癌検診について

ベラルーシ共和国にでは甲状腺癌が小児では事故後に72.6倍(事故前11年は7例、事故後11年では508例)に急増しました(表-1参照)。
しかも被曝後10年近くの潜伏期を置いて増加するとみられていた甲状腺癌が4年目から増加しはじめ6年後の1992年にはベラルーシ国内における小児甲状腺癌の増加が報告されています。文献等1)

事故後4年後に1.2人/10万人、9年後には4人/10万人を記録しその後減少に向い16年後の2002年にはベースに戻っています。
しかし、1995年よりは代わって青年期の甲状腺癌が急増し、これからのベラルーシを担っていく若者の罹患は新たな社会問題となっています(表-1文献2,3)。

私たちはベラルーシ国民を救うべく1997年から現地の医師らと協力し甲状腺癌の検診を行っていたNPO団体チェルノブイリ医療支援ネットワークの招請により、2003年より計10回の検診に参加し、現地の被曝住民に対する細胞診を用いた甲状腺癌検診と細胞診の技術指導を行ってきましたので、その意義や成果につき報告します。

*検診場所となったブレスト州は、当時各国の支援が行き届かない“支援過疎地”であった地域になります。

分泌診療所へ贈呈

スライドグラス、試薬などをブレスト州立内分泌診療所へ贈呈(左端がこの支援の中心となっている清水一雄教授)。

支援物資に喜ぶ医師たち

武藤化学の支援物資に喜ぶ医師たち。左端の女性は2006年の検診により甲状腺癌が見つかり、日本医科大学清水一雄教授の内視鏡手術を受け、今は幸せな結婚生活を送っているとの便りが届いております。支援の大きな成果と言えると思います。

ベラルーシの街並み

ベラルーシの街並み(ブレスト市にて)。

表-1 10万人当たりのベラルーシの甲状腺癌年齢と経時変化

表1

検診の目的

第一段階:一人でも多くの住民の甲状腺癌を発見すること

検診技術が未熟であった現地でデモンストレーション的な検診を行い、1人でも多くの癌を発見することを目的とした段階。

第二段階:現地医師による検診の実現へ

①検診手技等の伝達現地医師と共に検診を行うことにより、触診、超音波検査、穿刺吸引細胞診それぞれの検診手技を伝達することにより、現地医師による検診の実現を目的とした段階。
②細胞診断技術の伝達現地医師が自ら患者から採取された細胞を診断できるまでの支援。

第三段階:新しい甲状腺手術手技の伝承

特に女性に多い疾患であり、大きく頸に傷を残す現地施行の手術による患者の心の負担を解消すべく頸に傷跡がほとんど残らない内視鏡手術技術(VANS法)の伝承を目的とした段階。

*解説:甲状腺内視鏡手術 Video-assisted Neck Surgery(VANS)法手術1998年に清水教授が開発した内視鏡手術方法本術式は、甲状腺疾患は女性に多く、常に露出される前頸部に手術創が入る甲状腺・副甲状腺手術において美容的のみならず確実性のある方法で、切開創は露出された前頸部におかず、開襟衣類で被える前胸壁におく。

支援の成果

第一段階は10年継続し行い、第二段階の①は2-3年で現地医師は日本の医師を凌ぐ完璧な手技を身につけることができました。

第二段階の②である細胞診技術の伝達につきましては、現地滞在時間の制約などから最後まで実現が困難でした。
診断技術の伝達には診断の手本となる教科書アトラス(写真集)が不可欠であることを検診を行う中で実感していましたが、ロシア語の教本は存在しませんでした。
そこで医療通訳の山田英雄さんを中心に多くの方々の協力により1年半の歳月をかけ日本語の「メイ・ギムザ染色による甲状腺の細胞診」越川卓先生著、1991年武藤化学のロシア語訳が行われ、ついに2012年の検診の際にようやく贈呈することができました。

まだ最初の段階ですが現地医師が手本を見ながら基礎的な診断技術を学ぶことができる内容となっています。
この本は世界で一つの貴重な本ですので、今後はベラルーシのみならず、広いロシア語圏内の検診の参考書として広めることができたら良いと考えております。

第三段階の手術は現地で器具を作製し、現地医師自ら執刀できるようにまで伝達ができております。

チェルノブイリ原発事故30周年国際会議での発表

事故から30周年の国際会議が2016年4月21日~22日にベラルーシ共和国ゴメリの放射線医学環境センターにて開催されました(ゴメリは高濃度汚染地域です)。
その中でNPOの活動に事故後早くから参加し、細胞診の検診を行ってきた当院の内分泌外科教授である清水一雄先生がエコー・細胞診の検診から内視鏡手術の普及までを発表され、会場からは賞賛の拍手が沸き起こりました。
特に胎内被爆の影響で発症した甲状腺癌が我々の検診で見つかり、日本で内視鏡手術した患者さんが今はお母さんになり元気で過ごしている紹介した場面では拍手が鳴り止みませんでした。

我々の地道な支援活動が現地の人々に認められた嬉しい体験でした。
これも武藤化学様に毎回いただく、試薬・ガラス類の支援の賜物と考えます。感謝申し上げます。 

検診の結果

2003-2012年の10年間の検診では計416名の穿刺吸引細胞診が行われ、その内42名(約10%)の住民に甲状腺癌が発見されました。 

ベラルーシ甲状腺がん検診10年の結果

まとめ(今後の支援のありかたについて)

原子爆弾と原子力発電所の違いはあれ、同じ被爆国としての思いから支援を続けてきましたが、チェルノブイリ原発事故から25年経た2011年に日本が原子力発電所事故で汚染されようとは私も含め誰も想像していなかったことと思います。
ベラルーシでは今も被曝の影響が残りながらも、放射線からいかに自分を守るかを心得て実行し皆元気に前向きに暮らしておりますので、日本でも同じことが言えると思います。

今後の支援につきましては、まだ課題が多く残っている第二段階の②である細胞診技術の伝達につき進めていきたいと考えております。
昨年はモニター付きの顕微鏡写真撮影装置を贈呈できましたので、今までは顕微鏡を見ている一人しか見ることができなかった細胞を複数のスタッフが同時に見ることができますので、これを活用し、今まで検診で発見され手術された症例の顕微鏡写真を手術された甲状腺組織と照らし合わせながらデイスカッションしていく中で、診断技術を向上させる取り組みを紹介し、現地医師の間で検討会を開催できるように指導していくことなどが考えられます。

<参考文献>
1)長滝重信:放射線被曝事故+日本保険シンポジウム資料 日本アイソトープ協会)
2)伊藤正博、山下俊一:病理と臨床、チェルノブイリ原発事故後の甲状腺癌とチェルノブイリ組織バンク 2005・1・Vol23 No1 53-583)
3)Yuri Demidchik :Cancer consequences of the Chernobyl accident:20 years on

穿刺吸引細胞診の様子

エコーを見ながら穿刺吸引細胞診の様子。

ロシア語翻訳完成・贈呈

2012年ロシア語翻訳完成・贈呈 (左奥は日本より支援物資 試薬・スライドグラス)。 提供:武藤化学

甲状腺癌を手術したアリョーシャさん

現地スタッフと日本でVANS法にて甲状腺癌を手術したアリョーシャさん。

診断結果をアルツール医師と確認しているところ

診断結果をアルツール医師と確認しているところ。

日露アトラスを並べての説明

日露アトラスを並べての説明。

放射線医学環境センター

放射線医学環境センター。

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